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長く冷たい季節を通り越し、
春の気配をすぐ後ろ手で感じられる。
日一日と暖かさが増し、
街並は彩りを思い出したように、明るさを帯びてくる。
待ち焦がれた季節
それは、今から半年前の出来事だった。
それは突然、私の前に現れ、私を、そして彼との間を一瞬の内に遠く長いものへと変えた。
勿論、それは距離的なものだけではない。
「えっ、今何て言ったの?」
久し振りのデートだというのに、相変わらず難しい事ばかり話す賢君が、その合間に言った一言。
いつも話半分にしか理解できない小難しい理論とか、最近読んだ文献とか、
そんなことを沢山話してくれる時の賢君に、私は少し距離を感じている。
少しでも理解出来れば、賢君も話し甲斐があるんだろうけど、
それでも、楽しそうに話してくれる様を見ているのはとても好きで、
そんな時間を共有できる事は、背中がくすぐったくなるくらい、嬉しい。
でも、このときの一言は、一字一句理解できた。
理解できたけど、理性が言う事を聞いてはくれなかった。
「え、だから、家庭教師のアルバイトをする事になったから、今まで見たいに頻繁には・・・」
「そんなことを聞いてるんじゃないわ!
何でそういう事になったのよ?!
私、そんな事聞いてないよ!」
賢君が話し終わる前に、それを遮るように、私は柄にも無く大声を張り上げてしまった。
「み、京さん。取敢えず落ち着いて」
私より年下の彼だけど、普段からどっちが年上なんだか分からない。
特にこういう状況の時は、尚更だ。
分かっているのに、どうしても素直になれない。
「落ち着いてって、賢君はそれでいいの?
今までだってそう頻繁に会えてた訳じゃないのに!」
私と彼は学校が違う。
それは今に始まった事ではなく、この恋を決めた時から会えない事は覚悟していた。
学校ですれ違う瞬間のくすぐったい感覚・・・
それを私は知らない。
だから、たまにこうして会う時間が、堪らなく愛しいというのに。
「賢君はそれでもいいの?」
そんな、偶のデートだって言うのに、どうしてこうなってしまったのだろう?
私が一人興奮している間、賢君はずっと私を見詰めていた。
そして一頻り私が言い終わると、そっとハンカチを手渡してくれた。
私はいつの間にか泣いていたらしい。
視線の先が滲んでいる事すら、そんな普通の感覚も分からない程、感情が高ぶっていた。
私にとっては大きな存在。
私は差し出されたハンカチを受け取る事もせず、その場に立ち尽くした。
興奮と焦燥感から火照った頬に滴る雫は、そんな私を冷ますのには役不足だったみたいで、
次々と流れ落ちては、様々な感情が交錯して止まらなかった。
「ごめんなさい、京さん。相談の一つもしないで」
賢君はそう言いながら、そっとハンカチを私の瞼に当てた。
ハンカチの掠れる感覚が、嫌にリアルで、やんなっちゃう。
いっそ夢であれって、神サマに祈らずにいられなかった。
賢君は頭がいいから、今度彼が通う小学校に転入したい子の勉強を見てやって下さいって、お母様のお友達から頼まれたらしい。
入学試験だって難しい学校なのに、転入試験となったら、その難易度は比べものにならない。
賢君はそう説明してくれたけど、私には言い訳をしているとしか感じられず、
賢君が勉強を見てくれたら百人力だ、なんて親同士で盛り上がっちゃってるらしい事を、話の折で、何となくそう感じて、
また、そんな自分を腹立たしく感じるのには十分だった。
どれくらいの時間を、費やしたのだろう。
私達は何も語らず、私はただ泣き続け、賢君は困ったような顔で私の瞳から溢れ出て来る感情を一つひとつ丁寧に拭ってくれた。
でも、今更素直になるなって無理な話で、
彼の行為が、私には凄く偽善的なモノに感じられて仕方なかった。
「もういいよ賢君・・・」
私は俯いたまま、感情を殺すように言った。
何がいいものか。
私は何一つ納得していない。
「・・・え」
私の声が届いたのか届かなかったのか、賢君の反応は静かだった。
でも・・・もういいんだ。
「私が我侭だったんだわ。
だからもういいの」
自分に言い聞かせる言葉。
今私に言える事はこれが精一杯。
「だから、さようなら。
今日はありがとう」
賢君の返事も聞かず、私はその場を後にした。
逃げるように・・・この言葉が、一番相応しいだろう事は、誰よりも私が知っている。
一度振り返ってしまえば、その胸に飛び込むことも、泣きつく事も出来たんだろうけど。
私にはそれが出来ない。
賢君には散々甘えた。
貴重な休日だって、私の我侭でこうして逢って貰っている。
そう、賢君の都合なんて考えた事も無かった。
会いたいって言えば、絶対会ってくれる。
優しい賢君に、私はずっと甘えていたんだ。
だから・・・さようなら。
私は振り返ることもせず、現実から目を覆うように。
振り上げる足は、嘗て無いほどに重く、そして速く。
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