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       オーディション会場の控え室に着いたミミは、これまで感じたことの無いような緊張感に包まれていた。

       今までの選考では絶対の自信があったが、流石最終選考ともなると、その自信も揺らいでくる。周りを見回してみても、控え室に集まる十数人の少女たちはどの人も自分より輝いて見える。その一つ一つの動きは隙が無く、自信に満ち溢れているようだった。

       ミミは完全にその空気に飲まれていた。私が一番で無ければ嫌、とは言わないまでも、薄々そう感じていた彼女にとって、これは初めての経験で居た堪れない思いだった。

       ミミは知らず知らずの内に、手にしていた帽子に力を籠めていた。ふと気付いてその帽子を見やると、出掛けに逢った光子郎の無愛想な顔が脳裏を過ぎった。

       何かを考えていると、「まもなく審査が始まりますので参加者は各自準備を終わらせてスタンバイしていて下さい」と案内係が呼ぶ声があった。





       審査会場となる舞台袖へと続く廊下でまもなく審査をする少女たちが集められ控えていた。互いがライバルであることをやはり心のどこかで気にしているのか、少女たちは疎らに近寄らず、各々緊張を静めたり、予め準備してきた答えを反芻していた。

       ミミはその空気に益々緊張を募らせたのか、再び帽子に力を籠めた。

       すると女性に声を掛けられ、びくりと肩を竦めさせて驚いて振り返ると、いつぞやの女優が溢れんばかりの笑顔を綻ばせて、ミミに近づいてきた。

      「貴女は!」

       少し大きな声を出しすぎたと、ミミは自らの口を塞いで辺りを見回す。少女たちは皆自分に夢中で気付いた者もいなかったようで、ミミはほっとした。

      「こんにちわ。これからオーディションを受ける子よね?」

       再び辺りを見回し、やはり自分に声を掛けたのだと言うことを認識する。憧れの女優が自分に声を掛けてくれた。その事だけでもミミは跳ね上がりたい程の感動を覚えた。

      「こんなに肩に力を張っていたらいけないわ」

       まるで花が綻ぶように微笑う女性は、『万人を癒す』というのが彼女の売りの一つである。目前で微笑い掛けられ、ミミは改めてそれを納得することが出来た。

      「そ、そんなに力が入っていますか?」

       女性に負けじと、自然に爽やかに笑い掛けたつもりだが、若干声が上ずってしまった。ふふふ、と微笑う女性に、入りすぎていたミミの力も抜けていく。

      「ええ。まるで初めてオーディションを受けた時を思い出すようだわ」

       女性の慈しむような瞳に、自分姿が映り込んでいる。それだけで擽ったくなるような気分になった。

      「折角の素敵な帽子なのに、こんなにきつく握り締めてしまったら皺になってしまうわ」

       女性の手が握られていた帽子とミミに触れて、籠められた力を和らげていく。そこで初めてこんなにも緊張していたのだと言うことに気付き、「あは」とミミは舌を出して可愛らしく苦笑した。

      「さっきまですごく緊張していたんです。でも、出掛けに逢った友達にこの帽子を褒めてもらって、頑張ってって見送ってもらって…」

       帽子の縁をなぞるように握り締めていた箇所を伸ばしながら、脳裏に映る無表情の光子郎をそっと見詰める。思わず、本当に擽ったそうに微笑ってしまった。

      「そのこはあなたにとって、とても大切な存在なのね」

       栗毛色の緩くウェーブした髪は更に、女性の柔らかい雰囲気を醸し出している。女性は心なしか寂しそうな顔をして、ミミに訊ねた。ミミは訝しく思いながらも、「はい」と素直に応えた。

       女性が呼ばれ、ミミに簡単に別れを告げ「またね」と言うと、審査会場へと続く廊下を進んでいった。暫くしてミミより前の順番の子が呼ばれ、女性が入っていった扉とは違う入り口から審査会場へと姿を消した。もうすぐミミの順番だ。自ずと再び帽子に力が入り、いけないと思ったミミは、心の中で光子郎に詫びるのであった。





       事前に緊張が解れていたお陰か、審査は実に自信を持って臨めた。舞台袖でミミの直前の、控え室で一際輝きを放っていた少女の審査を見てもその自信は揺らぐ事は無かった。

       更に、審査ではこれまで出一番の出来ではないかとさえ思えた。監督が直々に様々な内容の質問をしてきた。それはミミ自身のことであったり、ドラマに関することであったり、全く関係ないのではないかと思われるものまで実に多種多様であったが、ミミはその一つ一つに丁寧に応えていった。『今日のあなたのアピールポイントは』と聴かれ、自信を持ってこの帽子であることを述べた。助監督が必死にミミの饒舌をメモしていくのも見ることが出来た。明らかに、他の少女より時間を割いているのが分かった。

       そして、時折審査員席にいる女優とも目があった。

       最後に、彼女から質問があった。

      「今あなたはとても緊張していると思います。そんなあなたを支えているのはその帽子を褒めてくれた男の子かしら?」

       今までの受け答えで気をよくしていたミミは、満面の笑みで自然に「はい」と応えていた。








    ***


      や、やっと続編が書けた。・゜(ノД`)゜・。
      諸々あって書けない次期があったので意外とちゃんと書けて良かったです。
      (出来はさて置き)

      これ、打っている最中に保存するの忘れて、間違えて「戻る」ボタン押しちゃったんですよね。
      当然全ておじゃんです。
      折角(私なりに)綺麗に書けていたのに。
      めちゃめちゃ落胆しましたよ。
      泣きそうだった。
      これはリベンジ作で、やっぱりどこか違うかもしれないと思う。

      次回ラストです。



                       14 Dec 2005 MumuIbuki





      ブラウンザでお戻り下さい





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