デジモンセイバーズ(仮) 終 いつもの様に、少年は学校から帰ると、自宅地下の書庫の一番奥深くに潜り込んだ。そこにこの本が眠っているからだ。 初めてこの本について疑問に思った時少年は両親に尋ねてみた。すると二人は血相を変えて棄て様としたので、慌てて元の場所に隠し、隙を見つけてはこうして隠れて読んでいたのだ。 この日も変わらない日常だった。学校の社会科の授業では、新しい事は教えてくれない。幼い頃からデジタルワールドに興味を持っていた少年は、学校で教えてくれる程度のことは独学で早々に知っていた。否、学校では決して教えてくれないことも、多く知っていた。少年は、デジタルワールドの情報について渇望していた。 もっと知りたい。本当のことを、沢山。 少年は、見落としていることはないかと、「デジタルワールド」を何度も読み返していた。この本に書かれていることを、大人達は誰一人として教えてくれなかった。だから、この本が伝える事こそが、少年にとって真実といってもよかった。 両親の反応から、これは本当はいけない本なのではないかと思ったこともあった。しかし、この本の“主人公達”は決してそんなことは無いと、少年に真摯に呼び掛けている。 だから、隙さえあればこの本を手に取ることは、少年にとっては日常だった。 この日、少年が本を手に取ると、いつもと感じが違ったことが気になった。本は何の変哲も無い。いつもと同じ、古ぼけて汚い本だ。少年が度々手入れをするので痛んではなかったが、それでも年月には逆らえないのだろう。 しかし、そういった目に見える変化ではなく、少年の心に迫ってくるかのような、それは感覚的なものだった。 少年は首をかしげながら、傍の古ぼけたソファーに腰掛けた。まるでそこで少年がこの本を読むことを想定していたかのように、この本を発見した時からそこにあったソファーだ。クッションが大分草臥れていたが、幼い頃から愛用していただけに、愛着があった。 そして、書庫を納戸と勘違いしていた先祖でも居たのか、ソファーの前には古いパーソナルコンピュータが据え付けられていた。今ではもう誰も使っていないような、化石級の代物だ。しかし、デジタルワールドに興味を持っている少年にとって、過去の遺物であるパソコンであっても、ある程度の知識は備わっており、今では少年専用の秘密のパソコンとして愛用していた。 きっと、この本の持ち主のパソコンだったのだろう。中に入っていたデータは、少年が喉から手が出るほど欲しかった、デジタルワールドに関する真実が幾つか遺っていた。それを真実であると確信できるのは、少年の本と合致する点が殆どだったからだ。 そのパソコンが、少年がまだ触れても居ないのに電源が立ち上がっていた。相当年代物なので、いちいち手作業で電源を立ち上げなければならない筈なのに。 訝しい表情で、ソファーに寝転んでいた少年は、本を片手にディスプレイに顔を近づけた。 画面は前の持ち主が設定したであろう待ち受け画面を表示していた。何の変化は無い。 単純に電源を落とし忘れていただけなのか。現在のパソコンは、使わなくなれば自動的に終了するが、このパソコンは、終了も手作業だった。 電源を落とそう。そう思い、キーボードに手を伸ばした瞬間、眩しくて目を閉じていても頭がくらくらするくらい白く輝く閃光に包まれた。 そして『タスケテ』と、聞こえたような気がした。 再び目を開けると、少年はこの地に居た。 片手に本を抱えたまま。 『護らなきゃ』 微かに聞こえた声に応える様に、少年はぎゅっと拳を握り締める。 『あの人たちが護った世界だもの』 少年は、手にしていた本の子ども達を、架空の人物とは思っていなかった。何故なら、少年のパソコンにまったく同じ名前が残されていたから。前の持ち主が、デジタルワールドの住人達と遣り取りしたのであろうデータの中に。 その中に、この本の著者も含まれていた。だからこそこの本が訴えるものは事実であり、少年が此処に居る理由も全てがはっきりとしていた。 『僕等が、今度は救わなきゃ』 ―――――DIGIMON SAVERS 始まりの章 …微妙?
Mar 3 2006 MumuIbuki ブラウンザでお戻り下さい |