オレが出掛けていく背中を、ヒカリは淋しそうな瞳を向けて見ていたのを覚えている。
両親が迷惑掛けないようにとか小言を言っている中、
そのあまりにも対照的な眼差しは忘れられようもなくオレの目蓋に焼き付いた。
でもそれは、風邪でサマーキャンプへ行けなくなってしまった為だと思っていた。
ヒカリは、オレに向かって何かを言おうとしたのかしきりに口を動かしていたが、寝起きと風邪の為うまく喋れない上に、母親がなんだかんだ話し掛けてくるので、遂にヒカリが何と言おうとしていたのか訊ねることができないまま、オレは出掛けなければならなかった。
あれから6年が経った。
長いようで短かったあの夏の出来事に比べると、気の遠くなりそうな時間だが、実際はこれまたあっという間だったと思う。
あの頃の事を思い返していた時、ふと、出掛けに言いかけたヒカリの言葉を思い出し、ヒカリに訊ねてみた。
ヒカリは、少し考えた様子だが、すぐに思い出したのか、くすりと微笑って、真っ直ぐな視線を俺に向けた。
6年も経ち、中2になったヒカリは随分大人びてきて、少しどきりとしてしまう事がある。
あのね、お兄ちゃん。
気をつけてね。
頑張ってね。
挫けないでね。
そして、信じ続けてね。
自分を、みんなを。