夢現つにその音を聞いていたが一向に止む気配がない。
止むどころか、けたたましくその間隔が短くなってきている。
誰かに揺すられ、漸く俺は目を覚ました。
いつの間にやら転寝をしていたらしい。
「お兄ちゃん?」
タケルが心配そうに覗き込む。
あぁそうだった。今日は久し振りにタケルが遊びにきていたんだった。
それなのに俺ときたら、昼飯食ってうつらうつらして、そのまま寝ちまったらしい。
ふと我に返ると、未だにけたたましく鳴り響いているのは、電池の切れ掛けたウチの呼び鈴だったことに気付いた。
俺は、まだ眠た気な体をソファーから剥ぎ取り、重たい足取りで玄関を開けた。
そこに立っていたのは隣に住む、世話好きのお節介で有名なオバサンだった。
手には回覧板を携えている。
俺は寝起きの頭でも精一杯愛想よく接したつもりだが、オバサンは顔を顰めていた。
中々出なかった事に対してかと思いつつオバサンの視線の先を追うと、いつの間にやらタケルがそこに立っていた。
俺がオバサンに視線を戻すやいなや、オバサンは待ってましたとばかりにタケルが誰なのか尋ねてきた。
弟と端的に答えると、ならばサマーキャンプには参加しなきゃと、持っていた回覧板を広げた。
確かにそこには、数ヵ月前から告知されていたサマーキャンプの申し込み概要が書かれ、参加者の氏名を書く欄があった。
俺のクラスや近所の奴もこぞって参加するらしいが、俺には端から興味がなかった。
断わろうとした時、後ろから声が上がった。
「ボクお兄ちゃんとキャンプに行きたい!」
いつの間にやら玄関先まで出てきたのか、俺にねだるような視線を向けてくる。
「だからってタケルが参加できる訳ないだろ」
「なんで?」
タケルは頑として譲らないらしく、他人がいる前で堂々と理由を尋ねてくる。
「それは…」
俺が言い淀んでいると、
「あら、別にいいじゃないの」
とオバサンは兄弟の会話に割って入ってきた。
「しかし…」
俺が先を言えないでいると
「大丈夫大丈夫、オバサンに任せなさいっ」
と勝手に納得し、エプロンのポケットからボールペンを取り出し勝手に人の名前を書いていく。
「大丈夫よヤマト君。折角兄弟が揃ったのなら、このくらいのこと、オバサンがなんとでもしてあげるわよ」
完全にお節介モード全開である。
隣ではタケルが嬉しそうにはしゃいでオバサンに礼と、自分の名前を告げていた。
嵐が去ったように、家の中はしんと静まり返り、タケルも散々我侭を言っていた事を理解していたのか、そそくさと部屋へ逃げ込んでいった。
――でも、これが運命だってことには、もっと後になってから知ることになるなんて、その時は予想だにしなかった。