無言の対弁者 「ねっ!ヒカリちゃんも一緒に作るよね」 覗き込まれるように同意を求められ、初めて自分が上の空であった事に気付いたヒカリは、ふわっとした笑みを浮かべて曖昧に答えた。 本心を隠すことに慣れてしまったヒカリではあるが、内心はとても複雑で気持ちが交錯していた。 しかし、ヒカリに同意を求めた少女はヒカリのそんな心の裡など知る由もなくどんどん計画を口にしていく。 ヒカリはただ同意と判断しがたいが返事の代わりとでもいうように時折微笑むばかりで一言も口をきかなかった。 否、きけなかったと言った方が正しいのかもしれない。少女の無邪気な気持ちは正直羨ましいものがあった。純粋に誰かを好きになり、その気持ちをチョコに託して贈りたい…ただそれだけのことが堪らなく羨ましい。またその反面、何も知らないくせにぺらぺらと知ったかぶって語りかけてくる友人を腹立たしくも感じていた。 確かにヒカリにも好きな人がいることを彼女は知っている。それが誰かはヒカリから聞いていないけれども、それならばこの乙女のイベントで一緒に頑張ろうというのが彼女の言う計画である。
もしそこで取り乱してしまったら、そこまで至らないまでも何かしら感付かれたらお仕舞いだ。ずっとずっと隠してきた、これからも隠し通していくと決めたこの気持ちだから…
兄が寝静まったのをみて、ヒカリは机のひきだしの奥にしまってある小箱を覗き込んだ。先日友人と作った気持ちの代弁者がそこに収まっていて、無言でヒカリを見詰め返している。 小振りながらも綺麗にラッピングを施されたそれは、まるで自分を見ているようで哀れだった。 どんなに視界に入っていたって、ヒカリだけを見ていてくれていても、叶わない気持ち。 いいように煽てられて、これじゃぁまるでピエロだと、ヒカリは揺らいでいく視界を乱暴に拭った。 少し晴れた視界でチョコを一瞥するとそっとひきだしを閉じた。
久々にヒカリ→太一。 ヒカリを主人公にするとどうしても暗いお話になっちゃうけれども、こういうのも結構書いていて好きです。 嘘を吐いてでも、気持ちをこめたチョコを贈る事は出来ないんだろうな、ヒカリは。 Feb.13.06 息吹・拝
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