STATION 見渡す限りの夕焼け。 世界は茜色に染め上げられている。空も木もビルの壁や窓や海の水面も、何もかも。 ゆらりゆらりと色が濃くなってゆき、その心を落ち着かせるようなグラデーションは、時間がとてもゆっくり流れているような気持ちにさせる。 それでも、確実に時間は早足でゆき去ろうとしている。
この駅で降りた同乗者たちは、皆足早に改札へと向かっていく。 しかし、最後に姿を現した少年はどこか後ろ髪をひかれるように、のろのろと歩き出した。
恙無く、それでいて怠惰な日々の繰り返し。
一瞬風に吹かれ、無造作に髪を掻き揚げる。 (そうだ、そろそろ髪も、切らなくちゃな…)
歩道を、女子高生のように幅一杯に歩いていた訳ではない。 あからさまに不快な表情を浮かべて振り返ると、夕陽が逆光となり表情まで窺えなかったが、久しぶりに見る懐かしい顔が、そこにはあった。
脇に並んで、そっけなく言って、運転席を降りる少年。 「普通オレを後ろに乗せるんじゃないのか?」 「オレのチャリに乗せてやるんだから、文句言わない」 にっと屈託無く笑ったその顔は、時間の経過など忘れさせる。相変わらずだ。
「医大って、獣医?」 「いんや、人間の。T医大」 「へぇ…」 必要以上は語らない。それでも、二人の間にはその端々に言葉が補われているかのように、辻褄が合って通じている。
沈黙を破った少年は、角を曲がると、低い声で、それでいて寂しそうな口調で、後ろにいる少年に問いかけた。 視界の先には、お互いの住む団地がもう目の前だ。 「オレ?」 太一は虚をつかれたかのように、じっと視線の先を見つめている少年を見返す。 少年は黙ったまま、只管自転車を漕ぎ続ける。 「オレは…バイクの免許でも取ろうかな」 太一の突拍子も無い一言に、思わずハンドルを揺らしてしまい、頭上から非難する声が響いた。 「そうじゃなくって。俺ら春には高3だろ」 思い直して、ハンドルを握り締める。 「…オレは、サッカー推薦かな。大体話はまとまってて」 「さすが国立のヒーローは違うってか」 「そんなんじゃないって」 困ったように笑いながらも、太一は否定しない。 二人は少年たちと違い、同じ学び舎にいるだけあって今でも交流が多い。 「今バイクの免許取ったら、来年には二人乗りが出来るだろ」 もうすぐ太一の家が近づいてくる。それを知ってかしらずか、太一は淡々と続ける。 「その頃にはヤマトも進路が決まってるだろうし、二人でバイクで卒業旅行行こうぜ」 ハンドルを握る手が、途端に軽くなった。 その直後、たん、と言う軽快な足音が、ビルとビルの隙間に木霊した。 太一が、自転車から飛び降りたのだ。 「そしたら、今度はオレがハンドル握るからさ」 自転車を止め、ヤマトは太一を振り返る。 もう大分陽は沈み、あたりは薄ぼんやりと灯る街灯の明かりが申し訳ない程度に照らしている。 太一の表情は、窺えない。 この距離が、もどかしい。 太一がそれを感じたかどうかは、分からない。 「じゃぁな」 やっと表情が見える距離まで来ると、太一は自転車の籠に入っていたヤマトのカバンを取り出し、自転車のハンドルを掴んだ。 もうここは太一の住む団地の棟の一角だ。 ヤマトはされるがままカバンを受け取り、自転車を明け渡した。 そして、太一が去っていくのを見送ると、自らも自宅へ向けて再び歩き出した。
何だか取り留めの無い話やなぁ。 「バイク」ネタを書きたかっただけなんですよ。 普通二輪は16からで1年経過したら二人乗りOKだったよね… ちなみに、高校サッカーが国立ってのも、大分不安。 違ったかもしれない…(滝汗) “今の時期”を一度書いてみたかったのよね。 今の時期…06年の春。 無印の5年生チーム、太一・ヤマト・空は高校3年生 丈は大学生 光子郎・ミミは高校2年生 タケル・ヒカリは中学3年生。 02だと、 大輔と賢ちゃんが中3で、京が高1、伊織が中2。 あぁ、みんな大きくなって、って感慨(笑) 折りしも、春からデジモンが復活するしね。 原点に、帰ってみようかと思って、ね。 30 Jan 2006 MumuIbuki ブラウンザでお戻り下さい |