恋蕾 




      (なによなによなによぉっ!)



       胸の中に生まれた、もやもやと渦巻く感情に、
      半ば己を忘れたかのように
      長いふわふわの髪を翻して、少女はぷいと視線を逸らした。
       しかし、視界を逸らせても耳に届く声ばかりは、どうにもならず、
      また、楽しそうに笑う少年の声など聞きたくも無いと思いつつも、
      何故か聞き耳を立ててしまう自分が情けなくもあり、居た堪れなかった。



       楽しそうに会話する声は、益々以って少女を不機嫌にさせた。







       最初に、少年が他人とふれ合う姿を目にしたとき、
      寂しい感情が胸を過ぎったのを、少女は感じていた。



       それまで周囲に壁を作ってきた少年。
       その理由と、そしてその少年が変わっていった過程を知っている少女にとって、
      それは喜ばしい光景であった。



       しかし、少女以外に、その優しい微笑を見せることは、どこか許せないという
      矛盾した感情が湧き上がったのも、ほぼ同時だった。







       少女にとって、今までは、誰の視界にも自身が居る絶対の自信があった。


      ――でも今は?



       たった一人の少年の、
      ほんの一瞬でも眼中に無いことが、
      これ程までにも胸をざわつかせるなんて。





      (あんなに楽しそうに笑っちゃって)




       耳に届いてくる楽しそうな笑い声すら、少女の心を波立たせるのには十分で。
       気が付くと少女は、掌をぎゅっと、きつく握り閉めていた。







       悔しい。


       あの場で一緒に笑っているのが、何故少女ではないのか。
       そう思うだけで、胸が締め付けられるよで。
       気が緩むと眦が熱くなりそうになるのを、必死で堪えていた。





      (どうしてアタシがこんな気持ちにならなきゃいけないのよ!)




       脳裏を掠めた素朴な疑問。




      (・・・どうして?)





       少女は、自身から生まれた感情に目を瞠った。


       そして、その疑問を反芻しながら、ゆるゆると掌を開いた。







      (そっかぁ。だから・・・かぁ。)






       心の底に芽生えた感情が、
       ゆっくりと蕾を膨らませる。




       双葉から顔を覗かせたばかりの感情が、
      まだ萼に覆われているその美しい花弁めいいっぱいに咲き誇るまでは




       まだもう少し。










    ***


      久々のSS!!

      誰か言わなくても分かっていると思いますが、ミミちゃんです。
      ミミ→光子郎です。
      天真爛漫で、自分が愛されている絶対の自信がある分
      本気な感情には疎そう。

      タイトルはそのまま、恋の蕾です。
      安直です。
      造語です。

      久々の息吹のSSはどうでした?




                       27 May 2006 MumuIbuki





      ブラウンザでお戻り下さい





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