軽快なリズムを奏でて受信を知らせる着メロは自分で設定したもので、最近特にお気に入りの曲であるのだが、今し方思い出したように歌い始めたそのメロディを聞いて、空は何故か不快に感じてしまった。

      『この手のメールは苦手だ』

       嫌な予感というものは当たるもので、メールを読んですぐ、空は諦めにも似た感情を吐き出すように溜息を吐いた。

       空は、そのメールを転送すること無く、二つ折りの携帯電話をそっと閉じ、睨めつける様に一瞥すると、放り投げたくなる衝動を抑えて元の位置に戻した。

       

       

      『願いが叶うって、そんなのあるわけないじゃない』

       たった今読んだばかりの文面を反芻しながら、空は独りごちた。

       それはよくあるチェーンメールの一種だった。

       「このメールを○分以内に○人に転送しないと云々」という、いかにも安っぽい、どこかの暇人が暇潰しに流したとしか思えないありふれた内容。

       携帯を持ち出した頃は、それがステータスであるかのように、空もこぞって転送したものだが、心のどこかで『本当に願いが叶ったらいいな』などと、期待することもしばしばだった。

       だがしかし、当然の如く願いなどかなった例がない。

       それでも、転送したのは単にそれが遊びの一種であり、ついで程度に願いが叶えば儲けモノだと捉えていた空は、例え何人に転送しても願いが一向に叶わなくたって、それは構わなかった。

       

       

       成長するにつれ、この手のメールは回ってこなくなった。

       誰もがみな、精神的に成長したからだろうか。

       

       

       しかし、忘れた頃に、回ってきたそれは、酷く空の心を締め付けた。

       久方振りのそれを見た瞬間、繋がりの象徴であるかのようなそれの輪を乱してはいけない、という強迫観念に襲われた。

       しかし、転送ボタンを押す気にはなれなかった。

       自分が回さなくても、輪は自然と流れていく事を、何となく感じたから。

       また、その安っぽい常套文句に乗る気力は、空には残っていなかった。

       

       

       生活が怠惰だった。

       何不自由なく、過不足なく、それは小川のせせらぎにも似た緩やかさで巡っていた。

       しかし時折襲ってくるような恐怖感からは逃れられなかった。

       何が原因かは、分からない。

       毎日が恙無く過ぎていく。

       問題があるとしたら、自分自身だろう。

       一体何が不満なのか、それすらも分からない。

       ただ鬱々と、日々が過ぎて行く。

       その間、焦りにも似た感情に流されないように必死獅噛み付くことしか、出来なかった。

       

       

       そんな折に届いたメールは、空の感情をどん底に突き落とすには十分だった。

      『願いが叶うならば、じゃあ私を救ってみせてよ』

       空が自嘲気味に笑った時、再びメールの着信を報せるリズムが聞こえた。

       手を伸ばし、文面を確かめて、憐憫の表情を浮かべた。

      『世の中って、なんて明るいんだろう』

       まったく同じ文面が、別の友人から回ってきた。

       多分先程の友人が送っていたのだろう。

       まめなのか他人と足並みをそろえるのがうまいのか…

       自分だけが取り残されているのか。

       自分から輪を外れたくせに、なんて都合のいい考え方だろう。

       全てが幸福に満たされているような友人からのメール。それだって、自分の勝手な思い込みだ。

       

       

      『私も、日向を歩きたい』

       それは気持ちの問題で、誰にも縋る事は出来ない願いだった。

       だから、「このメールを無視したら不幸になるでしょう」と言われようが、転送する気にはなれなかった。

      『これ以上の不幸なんてあるのかしら』

       そもそも、不幸と感じることすら驕りの様な気さえする。









    ***

      …ただ暗いだけのものになってしまった。
      「起承転結」でいうなら「転・結」がない。
      早く書かねば(汗)


                       Mar 10 2006 MumuIbuki









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