A TURE STORY 2 



       窓から目を逸らし、姿勢を戻したロイは、エドワードについて出ていこうとしたアルフォンスを、思わず呼び止めていた。

       怪訝そうな顔のエドワードを二人で見送り、エドワードが扉を閉め、廊下の角を曲がったであろう頃、アルフォンスが口を開いた。













      「それで、大佐は僕に何をお聞きになりたいのですか?」

       兄と違って礼儀を弁えているアルフォンスの口調は丁寧だが、まだ14歳という若い年齢の為か、探るような色が伺える。

      「そう構えなくても。ただちょっと気になることがね」

      「なんですか?」

       落ち着き払った雰囲気のこの弟に、遠回しに言っても仕方ないと踏み、またそうする必要はないと思ったロイは、先を進めた。

      「先程の話なのだが…」

      「大佐の思う通りだと、僕は思いますよ」

       ロイがいい終らないうちに、アルフォンスはその先を敢えて遮るように重ねた。

      「思う通りとは?」

       腕を組んで背凭れに寄りかかったロイは、自分からは何も言わず、飽く迄もアルフォンスに語らせるつもりらしい。

      「大佐も意地が悪い」

       その意図が分かってか、クスリと笑うと、アルフォンスはロイに向き直り「サンタクロースの正体は母さんですよ」と、なんでもないことのように言った。

      「…それは?」

      「兄さんは一晩中起きていたつもりなのかもしれないけれど、その晩は容態が落ち着いたこともあり眠ってしまっていたんですよ。
       でも僕は、母が僕の部屋に入ってくるのを確りとこの目で見ている。兄さんと違って、少しの物音でも起きてしまう性質ですから」

       鎧姿のアルフォンスの表情は伺えないが、生身の人間であっても、それは大して代わらないのではないかと、少年の口調から、ロイはそう感じていた。

      「分かっているのに、何故それを鋼のに言わないのかね」

      「兄さんも、真実を知ってるとは思います」

       座っているロイにあわせて、長身のアルフォンスは彼を見下ろすように話していたが、視線を上げ窓の外に向けた。

      「あの日も、こんな風に雪が降っていたっけ」

       アルフォンスの定まらぬ視線はどこか遠いところを見ているようだと、ロイは思った。勿論、生身の身体を持たないアルフォンスに、景色を捉えられる瞳などはないのだが。

      「兄さんにとって、サンタクロースは確かに存在するんです。それは、よく言われている、白いふかふかの髭をしたお爺さんではなくて、もっと身近な存在」

      「…それはお母上を指してるのかね」

       ずっと黙っていたロイが口を開き、アルフォンスがゆっくりと視線を戻す。

      「多分、そうだと思います」









      「母さんは、僕らに様々なものをくれました。物質的なものは勿論、特に沢山の愛情を…」

       暫しの沈黙の後、アルフォンスは自らに語りかけるように話し始めた。

      「サンタクロースは一概に存在しないと言い切る理由はない。
       寧ろ、サンタクロースなんて曖昧なもの、その正体が別の者だったとしてもいいではないですか。
       あのお爺さんは、仮の姿、って」

       にっこりと、笑いかけられたような気がした。そんな自身が可笑しくて、ロイはふっと零す様に笑い、「あぁ、そうかもしれない」と付け加えた。













       アルフォンスを見送り、ロイは立ち上がり中庭に面した窓辺に立った。雪は、先程と相変わらず静かに降り続いている。

       ――果たしてそれは、答えなのだろうか。

       ロイは誰に訊ねるわけでもなく、そっと問いかけた。

       母親がサンタクロースと信じることに異論はない。

      では、彼女の死後、彼らは一体何を信じてきたのだろうか。

       視線の先に、食堂へ続く渡り廊下を足早に歩くアルフォンスが見えた。

       彼を視線で追っていると、不意に、扉をノックされ、振り向き「入れ」と返事をした。

       視線を戻すと、アルフォンスは既に建物の中に消えていた。





    ***


      解決篇…とでも銘打っておきましょうか。
      よく分からないですね、はい。
      単に私がそう思ったからで、“サンタクロース”は居ると思います。

      多分まだ続きます
      (まだ続くの?!)

                          27 Jan 2006      MumuIbuki











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