その前で手を擦り合わせては、視線は眼前へ注がれる。
まだ来ぬ人を探す瞳は、次第に憂いを湛えていく。
土曜日とあってか、10時を過ぎた駅前には、人で混み合い、賑やかさを増していた。
しかし、一度路地へ入ってしまうと、その世界は一変とした。
喧騒を忘れたかのような静かな雰囲気は、どこか落ち着く、とさえ感じられる。
電車がまた一本出発した。
これで何本見送った事か。
暫くすると、その電車に揺られていた人々が、足早に彼女の前を通り過ぎていく。
あかりは暫くこうして、駅前の、少しはなれたところに、
彼等の邪魔にならないように、立っていた。
どれくらいの時間をこうして費やしているのか。
彼女の頬は、白に紅が差し、それが一層引き立たせている。
その最後尾まで見送って、あかりはまた目的を見つけられず、
再び俯いてしまった。
「何なのよ・・・」
呟きにも近い、小さな溜息だけが、白さを増し、静かにこぼれ、姿を消していく。
いつも一緒だったのに。
何をするにも傍に居て、私がいつも宥めて。
私が居ないと駄目だと思っていたのに。
行動パターンだって、知り尽くしていて・・・
分かっていると思ってたのに。
傍に居るのが当たり前だった。
そう思っていたのに。
いつも肩を並べて歩いていたのに。
急に先を越されて 自分の道をどんどん歩いていってしまう。
置いて行かれてしまった、と思うわけではないけど、
なかなか先へ進めない私自身に焦燥感を抱き・・・
気が付いたらここにきていた。
あかりは待つのに草臥れ、とうとう座り込んでしまった。
ずっと賑やかさを増す駅前を見ていたあかりは、
初めて対照的な暗闇の向こうにある路地の、一つの明かりを見つけた。
そこだけ煌々と照らされ、釣られる様にあかりはその前に歩を進めた。
2〜3歩近づいて、それが自動販売機だと気付いた。
あかりは鞄の中からお金を探しそれに投入すると、徐にHOTと表示されたボタンを押した。
ガコン、と落ちてきた缶コーヒーを拾い上げると、
「あったかい」
あかりはそれを頬に当て、冷え切った身体を温めるように、握り締めた。
そうしている内に、また電車が到着したのか、
あかりが先程まで居た通りには、新しい帰路に着く波が出来ていた。
慌てて通りに出ると、誰を探すでもなく、決められたプログラムを遂行するが如く、
あかりはその人だかりを、右に左に、
そして、最後尾が行くと、また目を伏せてしまった。
そうしてまた暫く、人の波を見送った。
先程まで、あかりの様に待っていた人の影も、その人並みと共に姿を消しつつある。
缶コーヒーも冷え切った頃、新しい一団が流れてきた。
しかし、あかりは座ったまま顔を見上げるだけだった。
遂には目だけを動かし、そうして一通り見送ると、また顔を伏せてしまった。
手持ち無沙汰に缶を両手で挟んで転がしては繰り返し、
更に色を増した息だけが、世界を濃く染めていった。
「あかりじゃないか?」
その声に顔を上げると、ヒカルが不思議そうな表情で、座り込んでいるあかりを覗き込んでいた。
「何してんだ、こんなトコで」
瞳を大きく見開き、座ったまま立つ事を忘れたようなあかりを引っ張りあげると、
ヒカルは屈託の無い、懐かしい表情を見せた。
しかし、黙ったままのあかりを怪訝に思ったのか、ヒカルは再度問い掛けた。
「え、えと・・・」
ヒカルの人懐っこい笑顔を見たあかりは、我に返り、
「じゅ、塾の帰りよ!!」
と、ずっと探していた筈のヒカルの、あどけない表情から目を逸らしてしまった。
「ほら、あげるわよ!」
そして、あかりは、何とか会話を逸らせようと
背中越しに、一本の缶コーヒーを差し出した。
他方、それを受け取ったヒカルは黙ってしまった。
暫く考えた後、嬉しそうな表情のヒカルは、そっぽを向いたままのあかりをその場に残し、姿を消した。
置き去りにされたあかりは、その場に立ち尽くしてしまったが、暫くして、
追いかけようと、足を出した途端、再びヒカルが姿を現した。
一瞬驚いた表情を見せたヒカルだったが、
「ほら」
と、また優しい微笑を向けた。
そんなヒカルの手に握られていたのは、あかりの差し出さした缶コーヒーだったが、
それはあかりのとは異なり、温かみを帯びていた。
あかりが中々受け取らないで居ると、
ヒカルはあかりの手を取り、それを握らせると、
「ごめんな」
と一言だけ、呟くように囁いた。
それは、缶コーヒーからあかりの手を包み込むヒカルの一回り大きくなった掌を伝って、
握り締められた缶コーヒーより高い温度を帯びた温かさが伝わってきた様な、
そんな温かさを錯覚させた。
「別に・・・」
あかりが言い終わらない内に、ヒカルは握り締めていた手を解き、
あかりから渡されたもう一本の缶コーヒーの蓋を開けた。
「ヒカル、こっち飲んでよ」
あかりが慌てて、自分の持っていた温かい方を差し出すと、
「おれはこれでいいの。こっちがいいの」
と、屈託の無い表情を見せた。
ヒカルはそれだけ言うと、照れ隠しなのか、
少し追い越した背丈から視線が合わないように、空を見上げるような格好で、
冷え切った缶コーヒーをごくごくと飲み干した。
ヒカルのそんな様子に気付いたのか、再び座り込んだあかりは
見上げる形で、温かい缶コーヒーをゆっくりと、味わうように啜った。
トップのアンケートより久し振りに書いたヒカ碁です。 SS自体も久々なので、情景描写の書き方を忘れた(ヲヒ)ので、 なんか・すべて・とっても・ひじょうに、おかしいデス。 その辺はご勘弁(泣) えと、この間学校帰りに飲んだコーンポタージュ(缶)が どんどん冷えていくトコからネタをこねくり回してたら、 原作第144局の扉絵を思い出し、そこに無理矢理こじつけて見ました。 個人的に好きなので、この扉絵。 どんなんだったか忘れてしまわれた方は、コミックを捜索開始★ (↑阿呆な私) 4.Nov.2004 MumuIbuki |
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【トップより抜粋です】 短い期間にも拘らずアンケートにお答えくださった皆様、 ご協力ありがとうございました。 結果は以下の通りです。
2位 デジモン (2票) 2.Nov.2004 |