そこには、最近こそは欧米の要素を取り入れた西洋建築も増えてきたが、
それでもやはり圧倒的に多い、周囲の典型的日本家屋と並ぶには
どこか違和感を感じさせる一軒の洋館が、
何かを訴えかけるような面持ちで、ひっそりと
しかしどこか重厚感を放つように建っている。
そう、まるでこの建物の主人の内面を語るかのように。
その洋館が夕陽を受け、一際目を引く。
出逢い
住宅街を一人歩く少女がいた。
高校生くらいだろうか、髪は長く夕陽に反射し色は判断できないが、
陽光に映え、その艶を一層増している。
長い髪を左右に揺らしている事から、彼女の機嫌がいいだろうこというこごが
手に取るように伺える。
その少女は、周りの景色、
特に空気が澄み高くなった空を真っ赤に染め上げる夕陽に目もくれず、
只管に住宅街を進んでいく。
歩きなれた道なのだろうか、それでも、周りには彼女の他に帰宅の途につく人影は見えない。
その少女が入っていったのは閑静な住宅街には不相応の洋館だった。
新興住宅街の区画整備のされた、似た造りの多い建物が
まるで自分を主張する事を忘れたかのように並ぶ中で
その洋館は異彩を放っていた。
少女は、勝手知ったる我が家同然に、備え付けられているチャイムを鳴らす事無く
表面には、歴史を多く刻んだ異国を思わせる彫りが施されている
重厚な造りの扉を開け放つと
「ロキくぅ〜ん、何かミステリーあるぅ?」
と、彼女にとって居る事が当たり前である、家主に向かって叫んだ。
彼女はこの彫を最初こそは不思議に思ったが、
この家の主や調度品を見た時から
さして疑問を抱く事は無くなった。
「いらっしゃい、まゆら」
少女が、他の部屋には目もくれず進んだ先にある扉を開くと一番に、この家の主の声が飛んできた。
夕陽を背にしている為、顔の判別は出来ないが、声は明らかに若い。
若いと言うよりは、幼い。
ロキと呼ばれた家主に促され、まゆらは応接用の、これもまた重厚な造りのソファーに座ると、
「ねぇ、ロキ君、ミステリー」
と、またお構い無しに、彼女は周りを一切気に留めず
彼女の本能の赴くまま話を進めていく。
「ハイハイ」
ロキは若干面倒くさそうに、執務用の、と言ってもそこで何か仕事をする訳ではなく
日がな一日読書をしたり、愛用の式神と戯れる、
この家で一番日当たりのいい彼の指定席を離れると、
まゆらの前のソファーに腰掛けた。
「実はね、まゆら。君にぴったりの人材を見つけたんだ」
ロキはにっこりとまゆらに微笑みかえる。
第一印象の、生意気そうな少年としか見えない風体のロキではあるが、
その大人びた表情や物腰はどこか違和感を感じない。
むしろ、説得力を帯びている。
「何?助手さんでも紹介してくれるの?」
まゆらは、ロキの唐突の提案の意味が分からず頭を傾げた。
彼女の、このような表現力の豊かさに、ロキは一番感心せずにいられない。
しかし、今はそのことは放っておき、ロキは話を進めていく。
「まぁ。まずは彼に入ってもらおう」
そうまゆらを窘めると、
「どうぞ」
と、まゆらが先程入ってきた扉とは違う扉に向かって、言った。
その扉が、今までそこにあったかどうか、
まゆらは特に気に留めはしなかった。
がゃちゃり
と、ドアが開けられ、入ってきたのは高校生のまゆらよりは少し幼いが
小学生くらいにしか見えないロキよりは大人びた少年だった。
「初めまして、ボク日向冬樹と言います」
どこか頼り気のなさそうな少年だったが、
目はクリっと大きく、好奇心旺盛と思わせる。
「彼も、ミステリーやオカルトが大好きなんだって。
ね、まゆらとぴったりでしょ?」
全てを謀った真犯人は、誰に言うでもなく、
そっと、内面に何かを含んだ笑いを零した。