キラキラした欠片が詰まっているみたいに
世界が耀いて見える。
まるで夢を見ているみたいに
現実と言うものそれ自体が夢であるかのような錯覚を抱かせるのは
この空気が持つ独特の魔法が故なのかしら?
ワクワク、ドキドキするのは、清麿がいるせい?
・・・それとも?
屈託の無い微笑を溢れんばかりに放ち、
進行方向と反対の方、つまり、彼女が今正に進んできた道を振り返り、
その場で駆け足をしながら後方に居た者達に手招きをしてみせる。
「こら、ティオ。そんなに急がなくてもアトラクションは逃げたりしないわよ」
ティオと呼ばれた女の子を漸く捕まえる事が出来た女性は、
「ねっ」と言いながら隣に立つ、青年・・・
にしては少しあどけなさが残る、大人びた精悍な顔を持つ少年を、
女の子の身長に合わせ屈んだ姿勢から見上げる。
話を振られた少年は、一瞬困った表情を見せたが、
すぐに、女性に倣い女の子の視線に合う様に屈むと、
そっと頭を撫で
「そうだぞティオ、あんまりはしゃいで転んでも、詰まらないだけだぞ」
と、優しい微笑を向ける。
「そうね、清麿!!」
湛えていた笑みを今にも零れそうな勢いで、ティオは清麿と呼ばれた少年に微笑み返した。
ティオは、まだ小学生にも上がっていないような幼さが残る一方、
その小さな体からは、はちきれんばかりの元気が溢れている、
見るからに活発そうな女の子だ。
そんな彼女が、少し気を赦したら飛んでいってしまう風船の様に、
今のその行動は実に破天荒である。
もともと、勝気な性格に加え、遊園地という空気が彼女の行動力に拍車を掛けるのだろう。
「でも、早く乗りたいのは本当よ、恵。
だから少しでも早く行きたいの!」
今にも走り出しそうなティオの手を握っている、恵と呼ばれた女性は
まるで少女漫画の様に大きな瞳をキラキラさせ訴えかけるティオに負けたのか、
「ハイハイ」
と、半ば呆れたようにティオの頭をポンポンと優しく叩いた。
その表情は、ティオのそれが伝染ったかの様に、微笑で溢れている。
ティオが再び走り出そうとしたその時、
「う、うぬぅ」
と何処からともなく声がした。
「どうしたのよガッシュ」
さっきまで、恵や清麿に甘えていたティオとは正反対の、
まるで弟を窘める様な声で、ガッシュと呼ばれた、
清麿の後ろに隠れるような状態で立っていた男の子の方へ向いた。
その表情もどこか、お姉さん振っている様に感じられる。
「あの者が食べておる、白くグルグルしたものが、まことに美味しそうなのだ」
そう言って視線が完全に、その白くグルグルした物に奪われているガッシュは、
ティオと同い年くらいに見えるが、
先程のティオとのやり取りから、少し頼り気がなさそうな雰囲気がある。
ガッシュが指差す先を追ったティオは、そこでガッシュ同様視線が釘付けになる。
その様子を見た清麿が
「もしかしてソフトクリームが食べたいのか?」
と、いつの間にか裾を掴んでいたガッシュに問い掛けた。
「ソフトクリームと言うのか!」
ガッシュは瞳を輝かせながら、既に訴えかけるように清麿を見上げた。
「・・・えっと」
「じゃぁここで一休みしておやつにしましょうか」
ガッシュの勢いに押され返答に困っている清麿に、恵は助け舟を出すように、
ガッシュに向き直って、ウィンクを投げた。
「じゃぁ私が買ってくるわ!」
ガッシュ同様、と言うより、ガッシュに感化され、
さっきまで次に乗るアトラクションに夢中だったティオの頭の中は、
今やソフトクリームで一杯だった。
「うぬぅ、私も買いに行きたいのだ!!」
少し逃げ腰のガッシュが、ティオの提案に抗議をする。
がしかし、
「何言ってるのよ、ガッシュが買いに行ったらソフトクリームを落としかねないわ」
と、同い年にしか見えない女の子に窘められてしまう。
「ほらほら、二人で買いに行けばいいでしょう」
困惑した表情を隠そうともせず、
二人の背中を軽く押し、恵は二人を促した。
「しょうがないわね」とぼやきつつも、嬉しそうな顔をしたティオは、
ガッシュを急かしながら、再び駆け出した。
「おばさん、ソフトクリーム4本ちょうだい!」
元気よく、しかしカウンターのギリギリを精一杯背伸びしてやっと届く女の子は
それでも見えるか見えないかの状態だったので、更に見上げるような形で
店員の人の良さそうな中年の女性にハキハキと言った。
傍ではガッシュも同じような格好で
「ぅおぉぉ〜」
と、“白くてグルグルしたもの”を作る他の店員の姿に目を輝かせながら感動していた。
店員は背伸び状態を続けるティオからお金を受け取ると、
カウンターの脇に備え付けられていた関係者用の戸口に促し、
出来立てのソフトクリームを持ってきてくれた。
「おじょうちゃん達二人だけで大丈夫かい?」
先程の様子を案じてか、人の良さそうな店員は、
屈んでティオにソフトクリームを渡しながら二人に訊ねた。
「大丈夫よ!」
ガッシュが傍に居るからか、完全にお姉さんモードのティオは、当然の様に答えた。
「うぬ。それにすぐそこに清麿と恵殿もおるからのぉ」
そう同意して、手を振るガッシュに応える様に清麿も手を振って返した。
「何だ、お父さんとお母さんが一緒だったのね」
それだけ言うと、安心したのか、二人にソフトクリームを渡すと、
店員はニッコリ微笑みガッシュとティオに手を振りながら次のお客さんの対応に戻った。
「父上と母上・・・」
不思議そうな表情を隠す事もせず、その場で呆然と思った事を口にしたガッシュに
「あら、こっちの世界では本当にそんな感じじゃない?
恵と居ると、すごく落ち着くし、あったかいし」
と、素直な感想を述べた。
そしてガッシュは、自分とは正反対に嬉しそうな顔のティオに、同意をし
少し離れた所に居る清麿と恵みの方を向いた。
ティオはソフトクリームが溶けちゃうとガッシュを急かせ、
二人は清麿と恵の基に、駆け出した。