「あっ!光子郎。起こしちゃったか?悪かったな」
突然僕が側に来てヤマトさんは驚いたように言いました。
「あっ!いえ。綺麗な音色ですね」
それは僕の本心でした。本当に落ちつく音色、でもどこか切ない・・・。
「子どものころからの趣味なんだ。あっ今でも子どもかぁ」
ヤマトさんでもこんな事言うんですね。意外でした。
それから僕らは色々な話をしました。そしてヤマトさんの話は「僕に似ている」と思わせました。
「ヤマトさん!!」
突然僕はヤマトさんの名を呼びました。この人なら、ヤマトさんなら分かってくれる気がしたから・・・。
「なっ何だ光子郎。急に大きな声出して・・・」
当然です。誰だって驚くに違いありません。
「あっすいませんつい。でもヤマトさんに、相談したい事がありまして・・・」
「相談?どうしたんだ光子郎?オレに出来る事なら協力するぞ。何だ話してみろ」
深刻そうな顔をしたヤマトさん。何だか申し訳ないです。でもやっぱりヤマトさんは本当に優しい人です。
「実は・・・実は僕不安なんです。いつ戻れるか、身の安全の保証の無いこの世界でこの先暮らしてゆくのが」
「あぁ。そうだな“みんな”でこれからの事をもっと相談すべきだな」
“皆さん”・・・?
「あっ、いえ。そういうことではなくて・・・」
本当に鈍い人ですねぇ。
「え!!違うのか?じゃぁ何だ?他にこの世界で不安な事・・・?」
えっ?
「あの、その“皆さん”なんです。不安に感じています事は」
「何だって!それはどういうことだ光子郎!」
ヤマトさんは本当に驚いた様に、これが本当の『ハトが豆鉄砲をくらった目』とでも言いますような目で僕を見ました。
「ですから、皆さんはこの世界が一体どんなものかまだはっきりしていませんのに自分勝手に行動しますし、
でもじっとしてても解決しないのは分かっています。・・・でも・・・」
「だから光子郎は一体何が言いたいんだ?」
半分、いいえ完全に怒った様子のヤマトさんは僕に聞き返しました。それは僕の予想したいたのとまったく違う反応でした。
「ですから、ですから、僕は・・・」
だんだんと涙声になっていくのが自分でも分かりました。でも何故なのか分かりませんでした。
「要するに、光子郎、お前は“みんな”のことを信じていない。頼りにしていってことだな」
まだ怒っている様子のヤマトさんですが、今の僕の言いたい事は分かっているようでした。
「・・・はい・・・」
声にならない声で僕はうなずきました。一体僕はどうしたら・・・。
頬に伝わる涙だけ、その静かな空間で動いていた。
もしかしたら僕とヤマトさんは似ていると勘違いしていただけなのかもしれません。
僕のコトを理解してくれると勝手に思い込んでいただけなのかもしれません。
結局は人は皆一人なのだということを痛感されられました。
何故なんでしょう?僕に何が足りないというのでしょう。
何故こんなにも胸が痛むのでしょうか?
「それは間違っているぞ。“みんな”がいたからこそ、今ここにお前がいるんだぞ」
しばらくの沈黙の後、少しトーンを下げてヤマトさんが言いました。
「・・・“皆さん”がいたから・・・?」
それは僕にとって意外な返答でした。
“皆さん”がいなければ、太一さんに「サマーキャンプ」に誘われなければ、僕はこんな事に巻き込まれずに済んでいたはずなの?
「そうだ。“みんな”がいたから、今お前はここにいる。
もしみんながいなければ、一人だったら最初のクワガ−モンに殺されていたかもしれない」
今度は僕が『ハトが豆鉄砲をくらった目』おようになりました。
あの日、この“デジタルワールド”に始めて来た日、あまりの突然の事でよく考える事さえ出来なかったあの日の出来事。
サマーキャンプに来ていたはずでしたのに気が付いたらこの世界にいました。そしてそこで彼らデジモンと出逢いました。
皆さんとの再会を喜ぶ暇さえ無く、クワガ−モンに襲われ、そしてデジモンが進化しました。
皆さんが彼らデジモンがいたから、あの時クワガ−モンに殺されずに済んだのでした。
“皆さん”がいたから・・・。
「そうです!“皆さん”がいたから今ここに僕はいるのです。
あの時僕とテントモンだけでしたら、きっと一人では何も出来ずに死んでいたかもしれません」
ヤマトさんを見るとニッコリ微笑んでいて、そしてヤマトさんはその優しい手で僕の涙を拭ってくれました。
もう、ヤマトさんは怒っていません。
逆に喜んでいるように笑っていました。
「ごめんな、怒鳴ったりして」
「いいえ。えっと、あの、あっありがとうございました。えっとその・・・」
「何だ光子郎?」
ヤマトさんは本当に優しい人です。
「僕、すぐには無理かもしれませんけど、頑張ってみます」
「頑張る?」
不思議そうに聴き返すヤマトさん。
「はい。信じてみます。“皆さん”のこと。そうすれば、きっと、きっと僕は変われると思うんです」
今ではもうすっかり涙はひてしまいました。
そして少し黙ってヤマトさんが言いました。
「そうだな。オレも偉そうな事言ったけど、オレだって光子郎と一緒なんだなから」
それはまた意外な返答でした。
「えっ?不安だったんですか、ヤマトさんも。“皆さん”のことですか?」
「ハハハ。オレだってまだまだだよ。オレも、もっと“みんな”を信じられるようにならなきゃな」
ヤマトさんでさえも・・・。
だんだん勇気がわいてきました。
「はい。一緒に頑張りましょう」
その後,ヤマトさんはまたあのハーモニカを吹いてくれました。
その音色はとても優しく、でも不思議に切なく感じました。
でも今はこの胸の高鳴りで一杯でそれ以上考えられませんでした。
翌日
「お家に帰りた〜い!!!」
素直に気持ちを表せる“純真”なミミさん。
「だから元いた場所に戻ろう!そこで大人達が助けの来るのを待つんだ」
皆さんのことを思う“誠実”な丈さん。
「ですから丈先輩、私達は崖を下って来たんですよぉ。こんな山登るのだって一苦労です」
皆さんに“愛情”を持っているからこそ世話役なってしまう空さん。
「パタモンあっちに行ってみようよ」
“希望”があるからこそ行動出来るタケル君。
「あっちだ!あっちに行こうぜ」
持ち前の“勇気”で皆さんを引っぱって行ってくれる太一さん。
「そうですね、太一さん」
太一さんは僕を信じてくれているから僕に聞いてくれているんです。
「光子郎?大丈夫か」
仲間を大切に思う気持ち“友情”で溢れているヤマトさん。
今すぐには無理かもしれません・・・。
でも・・・、でも信じることが出来れば、皆さんを信じることが出来れば僕はきっと変われる気がします。
僕に足りなかったことは、人を信じることで、僕が一人だと感じていたのは僕自身がいつのまにか皆さんに対して壁を作っていたからかもしれません。
人を信じることが出来なければ、自分を信じてもらえることは出来ません。
お互いに信頼し合うからこそ人は大きくなれるのかもしれません。
人は一人では生きてゆけない。
互いに助け合うからこそ成長し、新しい事にも立ち向かえる勇気を手に入れることが出来るのかもしれません。
それを教えてくれたのはヤマトさん達(大切な友達)。
この世界に来て人を信じることを学びました。
まだ元の世界に戻れる見込みはありませんが、きっと大丈夫です。
僕はきっとこの世界に、自分に立ち向かって行けます。