何とか学校には間に合い、その日1日京はソワソワしながら過ごした。
放課後、京はとうとう田町に来た。
京が田町に来るのは、賢が]‘masパーティーに皆を招待した、12月24日以来だった。
(もう後戻りは出来ないわ・・・)
京はフワフワした足取りで、賢の自宅に向かって行った。
「あの、一乗寺さん!」
京が賢のマンションの入り口近くまで来た時、聴き慣れない声がした。
胸騒ぎがして、京はマンションの物陰から覗き込んでみた。
そこには、制服姿の賢と、賢と同じ学校の制服を着た、見慣れない少女が立っていた。
「あの、最近の一乗寺さんって何か以前と雰囲気が違うって言うか、
あっ悪い意味じゃなく、そんな一乗寺さんの方が、えっと・・・、これ受け取って下さい!」
京の予感は的中した。
以前とは全く違う彼に思いを寄せていたのは京だけではなかったのだ。
賢は暫く黙って少女の差し出した物を眺めていた。
すぐに断らない賢の姿を見て、京は居た堪れなくなり、その場を後にした。
(少し考えれば分かりそうなことじゃない・・・)
京は駅に向かって、なみだを拭うこともせず、走った。
(賢君は優しくって、頭もよくって、私なんてお呼びでないって・・・
それにあの娘、スゴク可愛かったわ。
賢君はかっこいいし、お似合いだわ。
あのラッピングだって、私のとは全然比べ物にならない・・・
きっと中身だって・・・)
京は突然立ち止まり、抱えていた”モノ”を眺めた。
(こんなもの・・・)
京は”それ”を地面に投げつけようとした。
しかし、出来なかった。
この1週間、賢の喜ぶ顔だけを信じて一生懸命編んだ”モノ”を簡単に投げることは出来なかったのだ。
お台場に戻ってきた京は、公園のブランコに揺れながら、火照った顔を冷やしていた。
(こんな顔じゃ家になんて帰れない・・・)
放課後すぐに田町まで行ったが、この時期は日が暮れるのが早く、辺りはもう真っ暗だった。
「どうしたの京ちゃん、こんな時間に?」
後ろから不意に呼ばれて京は振り返った。
「空、さん?」
そこには心配そうに見つめる空の姿があった。
京は溜まったものを吐き出すようにワンワン泣き出した。
それは今まで経験したことの無い感情だった。
しかし、空は何も言わず、只京が泣き止むのを待った。
その空の瞳はとても優しかった。
「ごめんなさい、空さん」
やっと落ち着いたのか、京が泣きはらした顔を上げて言った。
「どうしたの?私で良かったら話してみて」
京は何度も嗚咽しながら事の一部始終を話した。
「そんなことがあったのね」
京が話し終わると、空は言った。
京は黙って頷いた。
「でも、京ちゃんは最後まで確かめていないんでしょ?」
「えっ」
京は空の言っていることが良く分かっていなかった。
「本当に一乗寺君はその子のプレゼントを受け取ったのかしら?」
空はイタズラっぽく言った。
「だって賢君、躊躇ってたんですよ?気の無い娘だったらすぐ断ったはずだわ!」
京は悔しさを露にして言った。
「本当にそう思う?」
「えっ・・・?」
「実は結構前に、初めて太一達にチョコ渡したときがそうだったの。
勿論それは義理チョコよ?でも太一達ったら固まっちゃって」
(賢君と同じ・・・)
「そう、初めての経験だと一瞬何があったのか分からなくなってか固まっちゃうの」
「・・・」
「一乗寺君もそうなんじゃない?
それに彼、前と雰囲気も違うし、思いの形も変わったんじゃないかしら?」
空はそう言うと京に微笑み掛けた。
京はもう涙は退いたようだ。
「でもどうしよう。今更分かったってもう遅いわ!」
京は立ち上がって心配そうにいった。
「大丈夫よ。明日確かめに行ってみれば」
空は京をなだめる様にまたブランコに座らせた。
「でも・・・」
空の顔を心配そうに見上げた。
「大丈夫、自分の気持ちに素直になって!」
京は空と別れた後駆け足で家に帰った。
案の上、京は両親に叱られた。
しかし、そんな言葉は京の耳には届かなかった。
ブラウンザでお戻りください
続きも読んでみる?