俺は石田ヤマト小学校5年生。
趣味はいつからか、気が付いたら吹いていた、ハーモニカ。
俺はコレをいつから、何故吹いていたのだろう。
親父の影響?
そんな筈は無い…。
じゃあ一体何故…。
ガブ「ヤマトのハーモニカって、とてもいい音色だね。」
ヤマ「有り難う。でも照れるな。」
ガブ「照れること無いじゃん。でも…」
ヤマ「でも…?」
ガブ「何だか、切なくなるね。」
切なくなる…?
<4年前・光ヶ丘団地一室>
またケンカか。
あっタケルが泣き出しちゃった!
お兄ちゃんの僕がしっかりしなくちゃいけないんだな。
僕、石田ヤマト小学1年生。
この泣いているのが、弟のタケル。
たった二人の兄弟。
最近はまっている事は、この間久しぶりに4人で行ったお祭りで、お父さんに買って貰った、ハーモニカを吹くこと。
何でか、出鱈目な筈なのに、これを吹くと、泣いているタケルが笑い出すんだ。
何でだろう?
あっこんな自己紹介してる場合じゃない。
タケルが泣いているんだ。
このハーモニカで…。
♪〜〜
ほら、もう泣き止んじゃった!
向こうでは未だケンカしてる…。
僕等はあっちの部屋で遊んでいような…。
<4年前・数日後>
僕はタケルと公園に遊びに来ていた。
この辺りには団地が沢山あって、あちこちで沢山の子ども達が楽しそうに遊んでいる。
ゴーグルを着けているこ。
ショートカットで男の子勝りなこ。
服が汚れないか心配そうなこ。
みんなと遊びたのになかなか入っていけないメガネのこ。
あとホイッスルを首から掛けているこも。
んっこのこが近づいてくる。
「ねえ、このこと遊んでいい?」
ホイッスルを首から下げた女の子は、タケルを指差してそう言った。
「うん!遊ぼうよ。だってお兄ちゃんったら黙って座ったままなんだもん。ねぇいいでしょ?」
痺れを切らしたのか、タケルはボクを急かすように言った。
「いいよ。行っておいで」
タケルが行ってしまってボクは一人で暇になったのでハーモニカを吹くことにした。
♪〜
「いい音色ですね」
突然の声に驚いて振り返ると、そこには同い年くらいの男の子が立っていた。
その子は一瞬女の子と間違えてしまうくらい可愛い声だった。
「あっありがとう」
ボクがそう言うと男の子はにっこりと笑ってボクの隣に座った。
「あっ僕に構わず吹いて下さい」
男の子はニコニコ笑っていたが、ぼくは少し黙った後、思い立ったようにハーモニカを吹き始めた。
♪〜
「とてもいい音色ですね、何だか落ち着きます。でも・・・、何だか切ない感じがします」
この男の子は何処でこんな言葉を覚えてきたのだろう、この時のボクはまだこの男の子の言葉を半分も理解できなかった。
夕方の鐘が鳴り、ボク達は公園を後にした。
『また今夜もケンカかな?』
そう思いながら、フトタケルを見ると、何も知らないタケルはボクに笑いかけてくれた。
その夜、やっぱりまたケンカが始まった。
タケルが泣いている。
ボクはタケルを別の部屋に連れて行き、ハーモニカを吹いた。
最近覚えたこの曲を。
当然の様に、すぐにタケルは泣き止んだ。
『そうだ。ボクはタケルの為にハーモニカを吹こう。
これを吹けばタケルが泣き止むのなら。何も考えなくて済むのなら・・・。』
<現在>
「どうしたのヤマト?」
ガブモンが心配そうにオレを覗き込んだ。
「いや、何でも無い」
オレはいつに無く晴れ晴れした気分だった。
「おーいヤマト!置いてくぞ!」
太一が遠くから俺たちを呼んでいる。
「分かった今行く」
オレはいつからハーモニカを吹いていたんだろう?
でも、これから先は、ココから帰ったら、きっと違う意味で吹けるような、そんな気がした。