「五月蝿いなー、今開けますよ」
けたたましいチャイム音で叩き起こされて、俺は大分不機嫌だった。
「はぁい、どちら様で?"化粧品"なら要りませんよ」
こういうのは大体新聞の意勧誘か化粧品のセールスだ。
俺は親父の忠告の事をすっかり忘れてドアを少し開けた。
「はっ?化粧品?お前化粧なんかすんのか?」
ドアを開けると一番に太一が飛び込んできた。
「何だ太一か」
そしてドアを大きく開いた。
「何だ皆も来たのか」
そこには太一の他に空、光子郎、ミミ、丈、ヒカリちゃん、それに・・・
「お兄ちゃん!!」
そう言って抱きついてきたのは・・・
「タッタケル!?タケルも来たのか?一体何なんだ?お前ら何しに来たんだ?」
あまりに突然だったことに加え、寝起きだった為に、俺はこの状況を中々掴む事が出来なかった。
「「「「「「「メリークリスマスッ」」」」」」」
俺の言葉が合図だったかの様に、全員が微笑みながら言った。
「えっクリスマスって、えっ?」
俺はそこまで言われても気付かなかった。
「だから、皆でパーティーをしようかと思って。突然迷惑だったかしら?」
空がまるで自分が悪い事した様な表情を浮かべながら言った。
「太一さんが言い出したんです。「今年も叔父さんが仕事だからヤマトさんのお宅でパーティーをしましょうって」
太一が・・・
「光子郎!」
光子郎を遮る様に太一が大声をあげた。
「あっ別にお前の為て訳じゃないんだぜ?勘違いすんなよ!俺は只、皆でパーティーがしたかっただけなんだから」
いつもにも増して太一は早口だった。
それは、まるで照れ隠しの様だった。
「嘘ばっかり」
他の誰にも聞こえない様な声でヒカリちゃんは言ったが、俺には聞こえた。
「だー五月蝿ぇ!!ほら皆寒いだろ?入れ入れ!」
「って太一、入れってここ俺ん家だぞ?」
「やっぱり迷惑だったわ、止しましょうよ太一。あなたが急にこんな事して、ヤマト君困ってるじゃない」
「否、そんなこと無いよ空。でもパーティーするなんて聞いて無かったから、何も用意してないぞ?」
何か即席で作れるかな?
「それなら大丈夫ですよ♪ほら!」
ミミちゃんの言葉を合図に全員が後ろに隠して(?)いた物を一斉に取り出した。
「アタシはママお手製の特製チキン、太刀川風!!」
「僕はシャンパンを」
「私はサンドイッチを作ってきたわ」
「僕はお母さんが作って下さったポテトサラダを持ってきました」
「俺たちは母さんが作った自慢のケーキだぜ!」
「少し焦げたけど」
「ヒっヒカリ〜」
「・・・」
俺は呆気に取られていた。
「あっあのねお兄ちゃん、僕も何か持って来ようとしたんだけど、電車で潰れちゃうといけないから・・・」
そう言ってタケルはカバンの中をなにやらゴソゴソ探し出した。
「はっはい、クラッカー!」
・・・・・
「ぷっははは、有り難うタケル。有り難う皆。寒かったろ?今暖かいスープでも作るさ」
「「「「「「「「メリークリスマス」」」」」」」」
そう言ってタケルの持ってきたクラッカーを合図にパーティーが始まった。
「おおっ光子郎の持ってきたポテトサラダ、すんげー美味そう!まず一口」
「こら太一、まだ盛り付けも終わってないのにがっつくな!」
「いいじゃね〜かよヤマト。う〜ん美味い!流石光子郎のおばさんだ!」
「あっ有り難う御座います。何か皆でパーティーするって言ったら張り切って作ってくれたんです」
そう言ってる間に、空とミミちゃんがシャンパンを運んできてくれた。
「おっさんきゅっ。でも丈がシャンパンを持って来るなんて意外だったな」
「それはどういう意味だい太一?実はシン兄さんが貰ってきてくれたんだよ。
今商店街のケーキ屋でバイトしてて、それでさ。しかもシン兄さん、サンタの格好してるんだ。それがまた似合ってて!」
「へぇーサンタさん!いいな〜。僕もサンタさんに会いたい」
「まぁ、シンさんらしいアルバイトですね」
「それどういう意味?」
「ほらほら、折角のお料理が冷めちゃうわ!さっ乾杯しましょ」
「じゃ、俺が音頭を取るぞ。文句ある奴いるか?」
「言わせないくせに・・・」
「ヒカリ〜!!」
「まぁまぁ、ほら太一がやりなさいよ」
「コホンッ。それじゃあ改めて、乾杯っ!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
「空さんの持ってきたサンドイッチも美味しいですね」
「ありがとうミミちゃん。でもパンに挟んだだけで全然手が込んでないのよ」
「でも、とっても美味しいわ空さん。でも…太一さんの持ってきたケーキって何でこんなに焦げてるの?」
「確かに少し芳ばしいですね」
「うるっさいなー!嫌なら食うな!」
「また失敗しちゃったから」
「ヒカリ〜〜!!!!」
「ハハハ」
「こらっ、笑うなヤマト!それを言うならミミちゃん!ミミちゃんのその殺人的なチキンにも問題があると思うぜ?」
「あら?どこか変?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
「だって普通じゃない」
「あのねミミちゃん。"普通"チキンに生クリーム付けたり、イチゴを乗っけたり、ましてやキムチなんてトッピングしないのよ?
しかも、こんなに大きくちゃいくらなんでの食べきれないわ。」
「ふーん。そうかしら?家は毎年これだけどな?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
「ママオリジナルの自信作なのよ!今日は友達とやるって言ったら特別にチョコレートもトッピングしてくれたの!」
「うわぁーいチョコだぁ。ありがとうミミさん!」
「どう致しましてタケル君♪」
これで全員決して食べまいと思ったに違いない・・・。
そうして夜は更けていき 、そろそろ帰らねばならない時間になった。
あまりに楽しい時間だったので、本当にあっという間に感じた。
「それじゃあヤマトさん、僕達はこれで失礼します。戸締りには気を付けて下さいね」
光子郎がそう言うと、皆玄関へ向かっていった。
「じゃヤマト君。突然押しかけちゃってごめんなさい。でも楽しかったわ。さあタケル君帰りましょう」
そう言うと、空はタケルに向いた。
「あのネ空さん、僕ねさっきお母さんに電話したら、お母さんも遅くなるし一人じゃ危ないから、お兄ちゃん家に泊まることにしたの」
タケルと二人になるのは久し振りで、何だかクスグッタイ感じがする。
「あら、良かったわねタケル君」
そう言って、空はタケルの頭を撫でた。
「あのなヤマト・・・」
皆が玄関に向かったのをいい事に、太一が小声で話し掛けてきた。
「何だ、太一?」
そう言う太一の表情はいつに無く(?)真剣だった。
「ほら、クリスマスプレゼント!ヤマトって意外と抜けてるから忘れてるんじゃないかと思って。
別に深い意味は無いからな!勘違いすんなよ!じゃあな!」
・・・・・?
「じゃあ失礼するよ。いいクリスマスを」
年長者の丈がそういって、皆は帰っていった。
皆が帰り、シンと静まり返ってしまった室内。
タケルも眠そうだったので寝かせてしまい、余計に静かになってしまった。
(皆が来てくれて良かったな)
ガチャッ
突然ドアの開く音がした。
(誰か忘れ物でもしたのかな?)
「誰だ忘れ物なんかしたのは?太一か?まあ大体犯人は太一だろうな」
「はぁ?忘れ物?」
「なっ何んだよ、親父?何で?仕事は?」
「やっぱりヤマトと過ごしたくて、無理言って帰ってきた」
突然の親父の帰宅に戸惑ってしまった。
「かっ帰ってきたって、大人の癖にそんなんでいいのかよ!クビになるぞ?」
本当は嬉しいのに素直になれない・・・。
「オイオイ脅かすなよ。まぁ一日位いいじゃないか!本当は嬉しいくせに。
おっタケルじゃないか!タケルも来てたのか!」
親父は何でもお見通しか?
それから、また親子三人で、少し遅いけどクリスマスパーティーをした。
ケーキもご馳走も無かったけど、楽しいパーティーだった。
「来年はお母さんも一緒にクリスマスパーティーやろうよ!」
一瞬にして空気が重くなった。
何度そう思っても、決して口に出せなかった言葉。
「そうだな、今度は4人で出来るといいな。
ほらタケル、食え食え!」
重くなった空気を掻き消すかの様に、少し困った様だったが、親父がそう言った。
(只の気休めなのだろうか)
「じゃあおやすみ、親父、タケル」
そして俺は自分の部屋に入った。
"久し振り"という事でタケルは親父と一緒に寝る事になったのだ。
今日は何年かぶりに、とても楽しいクリスマスだった。
俺の周りにいる人たちは、本当にいい人ばかりだ。
(あっ、太一から貰ったプレゼント忘れてた)
太一からのプレゼントは太一らしく(?)薄っぺらな物だった。
(どうせ碌な物じゃないだろうけど・・・)
そう思いながらも少しだけ期待しながら封を開けてみた。
・・・・・。
「何なんだこれは〜〜!!!!!!!」
プレゼントは・・・"片方しかない"靴下。
「ふざけんなっ太一っ!」
「ヤマトっうるさいぞ!」
ヤマトへ
ヤマトのことだから、きっと忘れてるだろうと思って、
俺が用意してやったぜ。ありがたく思えよ。
太一
今日は本当に楽しい一日だった。
オチもあったけど・・・
きっとまた4人でクリスマスを迎えられることを願って。
良き友に感謝して。
Merry X’mas!!
その後、ヤマトはくつ下をどうしたかはご想像にお任せします。