「あーっ何なんだよアイツは!!」
(本当にいい天気です。ヒカルならずとも昼寝をしたくなるのも無理ないですね・・・)
ヒカルは全ての怒りを佐為にぶつける様に叫んだ。
「ヒカルったら、あまりそう言う物ではありませんよ。三谷だって悪気がある訳では無いのですから。」
ヒカルは分かっていた。
分かっているからこそ、佐為にあたってしまうのだった。
ヒカルが院生試験に受かって既に数カ月が経とうとしている。
院生研修にも慣れ、碁の方も軌道に乗り出したが、ヒカルは三谷と“アレ”以来全く口を聞いていない。
さっきもヒカルが声を掛けたが、三谷は無視したのだった。
「いい加減許してくれたって・・・」
「ヒカルっ!」
佐為はヒカルの小言も聞き逃さずに説教する。
そんな関係もずっと続いている。
「にしても今日はいい天気だなー」
「本当に。このところずっと雨が続いてから、太陽が一段と眩しく感じられます」
「ホント、ポカポカしてて気持ちいよな。
時間もあるし、あの芝んとこで少し昼寝でもしよっかな〜」
「ヒカルっ!学校の先生にもお母さんにも、寄り道しない様いつも言われているじゃありませんか!」
「うるさいなー。小学生じゃあるまいし。ちょっとだけだよ」
そう言ってヒカルは止めようとする佐為をお構い無しにそこで昼寝を始めた。
「もうヒカルったら!知らないんだから!」
自分勝手なヒカルに佐為は呆れてしまった。
佐為がヒカルの寝顔を見ると、気持ち良さそうに笑っていた。
(いい夢でも見ているのでしょうか・・・?)
(ん・・・あそこにいるの進藤じゃねぇか。)
三谷は帰り際、ヒカルが昼寝をしていたところに通り掛かった。
(何だよコイツ、さっきまで俺に食ってかかってきてたクセに・・・)
三谷はヒカルの側へ寄り、ヒカルの寝顔を覗いた。
(何だよ、気持ち良さそうに寝やがって・・・)
三谷は暫くそんなヒカルの寝顔を、惹き込まれるかの様に、見つめていた。
「・・・悪かったな・・・」
暫くした後、三谷は誰にも聞き取れない様な囁くような声で言った。
そして三谷は、分が悪そうに帰っていった。
「あ――――っ、もう夕方じゃねぇか!
何で起こしてくれなかったんだよ佐為!」
ヒカルは起きるなり佐為に当り散らした。
「知りませんよ。ヒカルが勝手に寝始めたのではありませんか」
佐為はまるで子どもの様に拗ねてみた。
「あ゛ーっ、三谷には許して貰えないし寝過ごすし、最悪だよ!」
ヒカルは寝起きで頭が混乱しているのか、頭を抱えながらまたそこに転がってしまった。
「大丈夫ですよ。」
佐為は、さっきとは裏腹に、混乱するヒカルを落ち着かせる、そんな優しい声で言った。
「なっ何を根拠にっ」
ヒカルは一瞬佐為の言葉に我を忘れ茫然としたが、すぐにまた元の表情に戻った。
佐為はニコリと笑た。
「大丈夫ですよ。きっと三谷もいつか許してくれますよ」
佐為の自信たっぷりの口調に、ヒカルは首を傾げてしまった。
「いつかっていつだよ?」
「ヒカル達がもう少し大人になったらです」
佐為は何もかも知っている、そんな雰囲気が寝起きのヒカルでさえも感じられた。
佐為の後ろでは夕焼けが始まっていた。
佐為の言葉に夕日が手伝って、ヒカルはとても安心した気持ちになった。
「そう言えばヒカル。ヒカルはどんな夢を見ていたのですか?」
帰り道、佐為は思い出したかの様に突然言い出した。
「えっ・・・」
ヒカルは佐為の突然の質問に、思わず転びそうになってしまった。
「どうしたのですか、ヒカル?」
「いっいや、大丈夫。でも、それが覚えてないんだよな。普段は結構覚えてる方なのに」
「そうなのですか・・・」
「でも・・・何かぼんやりなんだけど、誰かが笑ってた、そんな感じがしたような・・・」
そういうヒカルは、何だか不思議そうな顔をしていた。
(ヒカル・・・きっとそれはね・・・・・・・・)
管理人:夢萌