With vigor


「賢く〜ん!!」
そういって息を切らして走って来る彼女はそれだけで可愛くて。
思わず笑みが零れる。
彼女の美徳はその生き生きとした表情だから。


「賢君…私ね…振られちゃったんだ〜」
少し前、そういって無理やり笑っていた彼女。
「あ〜あ、やっぱりこんなやかましい女は駄目なのかな?」
笑ってる。
ここ数日その笑いで周囲を騙してきたのだろう。
友達も家族も何もかも。
「よっし!!新しい恋みつけるぞ〜!!」
そう自分に言い聞かせて。
「似合いませんよ。」
「何が〜?」
そういって少し前を行く京は振り返る。
「あなたにはムリは似合いませんよ」 「…なんで?」
「見てればわかりますよ。」
「皆は京は立ち直りが早いねっていってたのに?」
彼女の事だから振られた日は騒ぎまくって怒りまくっただろう。
でもきっと、次の朝には平気な顔をして皆の前に顔を出したに違いない。
今のように。
そう直感した。
「そうですね、いい間違えました。そういった所を含めて僕には見てればわかりますよ。」
「…やだなぁ、賢君。そういうのはわかってても黙っているものよ!女の子の扱いがなってないわ!」
そう叫ぶ事で平常心を保とうとする彼女はやっぱり痛々しくて。
「それは…泣きそうだから?」
「そういうツッコミもアウトよ!!」
「すみません…でも…」
そういうと賢は京を真っ直ぐ見つめる。
目を見る事を教えてくれたのは彼女だった。
「たまには息を抜かないと疲れちゃいますよ。」
「…」
「僕はわかってますから。」
「…ホントやだなぁ、もう…なんか賢君いつも違うし〜」
そういって京は静かに泣き出した。
普段からは想像もつかない姿。
彼女は静かに泣く、というのは周りから見ればミスマッチかもしれない。
けど僕にはそれが普通で…。

「違いますか?」
「…何かいつもより押しが強いし…なんか生意気だし…」
「ああ、それは枷を外したから」
「枷?」
「ええ、自分を抑えるのはやめたんです。」
「?」
「まぁ、その内分かりますよ。」
「ううう、やっぱり生意気だぁ〜」
そういって涙を拭きながら微かに笑う。
僕は息を呑んだ。
それが心からの笑いだとわかったから。
かわいかったから。



「待った〜?ゴメ〜ン!!」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「そう?じゃあ、早く行こ!!映画始まっちゃう!」
そう言って僕の腕に引っ付いてっくる。
「でも賢君変わったよね〜」
「そうですか?」
「うんうん!前もかっこよかったけど少しおどおどしてたって言うかぁ〜少し押しに弱い感じだったじゃない?今は良くも悪くも動じなくなったのね〜」
「…」
「?どうしたの?」
「いえ…京さんが前に振られた時の事を思い出していたんですよ。」
「ええ〜!!あの恥ずかしい時の事?!!忘れてっていってるでしょ〜もう!」
「あんないい思い出忘れられませんよ」
「…なんか今ずっごく私にケンカ売ったでしょ。」
「そんなんじゃ…。僕としては、そのお陰で京さんを捕まえられたんですから。」
彼女は真っ赤になる。
「う…え…えっと。」
その動作に僕はクスクス笑う。
「やっぱりたちが悪くなったんだわ…前はあんなにかわいかったのに…。」
「その分京さんが可愛いからいいんですよ。」
「…あんなに照れ屋だったのに…」
「だから、いいんですよ。」
「私はどこも良くな〜い!!」
「まぁ、まぁ、いいじゃないですか、それより、映画始まってしまいますよ。」
「っあ、ヤバイ!!走ろう!!賢君!」
そういうと腕を引っ張って走り出し僕は引きずられる。
「ち、ちょっと、待って…」

僕の中で、彼女は生き生きとしてくれている自身がある。
それは僕自身にも影響が強いもので。
だから僕は彼女を失いたくない。
あの笑顔も何もかも、無くしたくない。
そのために変わるのなら僕は後悔しない。
構わない。
そう思える事がとても嬉しい。
僕は、幸せなんです。
今までで、きっと一番。
彼女といれる事が。