「失礼しまぁす」
放課後、私は早速パソコン部に行ってみた。
(あれ…?)
そこにはいるはずの部員はおろか部長さえもいなかった。
(HRが長引いてるのかな…)
取り合えず私は誰かが来るのを待つ事にして、窓辺の席に座り外を眺めていた。
(私も運動部にするば良かったかな?)
暫くボーっとしていると突然何かが動く物音がした。
(なっ何!?)
誰もいる筈の無い教室で物音がするなんておかしずぎる。
私は恐怖で声が出なかった。
「よしっ!接続完了!」
突然見知らぬ男子生徒が机と机の間から頭を出した。
「あっ入部希望の方ですか?」
私の存在に気付いたのか、彼は嬉しそうに話掛けてきた。
「あっ…ハイ」
私は突然の出来事に動揺を隠せず、曖昧な返事しか出来なかった。
「まだ決められていないのですか?でしたら見学だけでも如何ですか?」
私は彼の小柄な体格と丁寧な口調から、私より年下なのだと思った。
「あっハイ、お願いします。あの、ところで部長さんはどうしたんですか?」
彼はキョトンとした顔をした。
「すみません。紹介が遅れました。僕が部長の泉光子郎です」
そう彼は苦笑しながら答えた。
「えっ!貴方が部長さんなの…ですか?」
私は今まで先輩に向かって失礼な事を言っていた事に気付いた。
「ごめんなさい。私ったら…」
「お気になさらないで下さい」
彼はそう言って私を自分の隣の席へ促した。
「今接続中で大した事出来ませんが、お好きなだけ御覧になって行って下さい」
「えっ?接続中って?」
私には彼がどうしてもインターネットに接続しているようには見えなかった。
「あっ実はここ、それ程の設備が整っていなくて、僕が色々弄らせて頂いているんです」
そう言う彼の、パソコン及び周辺機器をセッティングする手つきはとても小学生とは思えないものだった。
「凄いんですね先輩!この間家に来てパソコンを繋いでくれた電気屋さんよりずっと慣れている感じがします!」
私はこの間漸く自分のパソコンを買って貰い、その時セットアップしてくれた人と彼の差に只々驚くばかりだった。
「そんな、僕なんて大したことないですよ!それより、貴方もパソコンをお持ちなのですね」
彼はまるで照れ隠しをする様に話題を変えた。
「はい、一応。でも先輩には全然敵いませんよ!」
「いえ、パソコンに興味がある方に入って頂けるだけでも十分です!」
そう言う彼はまるで夢を語る少年のように屈託の無い笑顔で私に笑いかけた。
この時私は不思議な感情が流れ込んできたのを感じた。
しかしこの頃の私はその正体を知る由も無かった。
その後、私は日が暮れるまで先輩の作業を見続けた。
見てるだけじゃつまらないだろうと、先輩は色々と教えてくれ作業の手伝いもさせて貰った。
先輩の指導は丁寧かつ簡潔でパソコンを始めたばかりの私にも分かり易い程だった。
それは、彼の知識の深さを知るには十分な程だった。
「京〜!」
翌朝学校へ行く途中詩音が呼ぶ声に私は振り返り大きく手を振って答えた。
「おはよう京。パソコン部はどうだった?」
詩音は心配していてくれたのか一番に尋ねてきた。
「私、パソコン部に入ることに決めたよ!」
「ふーん。良かったね、気に入った部活が見つかって。どう?部長になれそう?」
詩音は笑いながら言った。
「ううん、部長なんかどうでもいい。て言うか私なんてそんな器じゃないし。とにかくそこで頑張るの!」
私はいつになく意欲的だった。
そんな私の姿に詩音は不思議そうな顔をしていたが、またいつもの笑顔に戻り私の手を引っ張り
「早く行こっ!」
と走り出した。
「京?どうしたのボ〜っとしちゃって?」
あれから3年。
またこの季節がやってきた。
「ううん、何でもない!」
「ねぇそれより京、部活決めた?」
詩音はイタズラっぽく笑いながら私に尋ねた。
「もちろん、パソコン部!」
私は何の躊躇もなく答えた。
その声は爽やかな春の風に浮かぶ桜の花びらと共に舞っていった。